車の中は、重い沈黙に満ちている。 運転席に座っている志藤さんは、まだ怖い顔をしている。 眉間に皺を寄せて、辛そうな、痛そうな表情。 その表情をさせているのは、俺だ。 「………ごめんなさい」 なんて言ったらいいか分からなくて、それだけ言った。 志藤さんは前を向きながら、ますます眉間に皺を寄せる。 「あなたの、意思は尊重したい。そうお約束いたしました。でも………っ」 この人を苦しめているのは、俺だ。 巻き込み引きずり込み、本来必要のない苦痛を与えた。 「ごめん、なさい」 やっぱりこの人を巻き込んだのは間違えだっただろうか。 後悔は、消えない。 この人に消えない傷をつけた。 でも、自分で選んだことだ。 それに、志藤さんも、それで構わないと言ってくれた。 俺の行動は否定することは、この人の覚悟すらも否定することになるかもしれない。 それも俺の罪悪感からくる、思い込みかもしれないけど。 駄目だ、今更考えるな。 「………どちらにせよ、一度家には、帰らないといけません。何も、持ってないし」 「そんなの、どうでもいい、どうだってなります!!」 悲痛な声。 胸が、痛い。 「あなたの意思など無視して、このまま連れ去りたい!」 いっそそうしてもらったら、楽だろう。 志藤さんに自分の意思のすべてを委ねて、何も考えずに、流される。 本当に、それは飛びついてしまいたいほど、魅力的。 でも、駄目だ。 「ありがとうございます。志藤さんがそう言ってくれるのが、嬉しいです。とても嬉しいです。でも、どうか、俺に決めさせてください。ここまであなたを巻き込んでおいて、こんな我儘をいうのは、最低なのですが」 「そんなの、三薙さんは、私をいくらでも、利用していいんです。だから、だから………」 利用した。 すでにあなたを利用したんです。 あなたのその、気持ちを、俺は利用し、弄ぶ。 「逃げたくなったら、言うので、お願いできますか?」 「………っ」 ごめんなさい。 ごめんなさい、志藤さん。 「お願い事があったら、頼みます」 あなたが連れて逃げると言ってくれた時に、気づいてしまった。 俺に力を注ぎ、俺のために苦労して逃げるあなたを想像して、俺は気付いてしまったんです。 俺は、あなたの命を背負う覚悟がない。 あなたは俺の全てを背負う覚悟があるのに、俺はその覚悟がない。 あなたが心と体を削り、弱っていくのを見ていることは出来ない。 弱っているあなたを見ていられるほどの、執着が俺にはきっとない。 きっと俺は逃げ出してしまう。 志藤さんを信じ、全てを捨てる覚悟がないのは、これが恋ではないからだろうか。 栞ちゃんのように、全てを投げ出し、天のために殉じる覚悟がない。 この人が好きだ。 でも、これは恋ではないのだろうか。 これは愛ではないのだろうか。 いつかは恋に、執着に、育ったのだろうか。 「………分かりました」 志藤さんは、長い沈黙の後、絞り出す様にそれだけ言った。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 何度繰り返しても、足りない謝罪。 「いいの?」 「………うん」 後部座席にいた四天が、静かに聞いてくる。 そこには苛立ちも焦りもない。 ただ、冷静な声だった。 「もう、外には出れないかもしれないよ?」 「………」 今度こそ、俺は家からもう出されないかもしれない。 この選択があっているのか、分からない。 きっと後で、後悔する。 でも、このまま逃げることは出来ない。 「逃げたいと思っても、その時には逃げられないかもしれない」 「………分かってる」 「そう」 今は、逃げられない。 このまま逃げて、逃亡の生活に、志藤さんが疲れて、俺への想いを失うかもしれない。 それは、何より見たくない。 どうか志藤さんにだけは、最後まで俺を好きでいてほしい。 「俺は兄さんの意思に従う。兄さんがしたいことに協力するよ。奥宮になるにしろ、逃げるにしろ、あの家を潰すにしろ。まあ、何を選んでも、最終的には俺は自分の目的を果たさせてもらうけどね」 「………分かった」 天は、やっぱり冷静な声で、そう言った。 そこに感情の揺れは、見えない。 こいつは何があっても、自分の身を賭してでも、思いを遂げるのだろう。 幼いころから、決めていた通り。 俺にはまだ、その覚悟が、出来ない。 どうしてみんな、そんなに強いのだろう。 俺はいつまでも弱いままなのに。 「あ………」 空気が、変わる。 外に出てから戻るとよく分かる、馴染んだ気配。 「宮守の土地に入った。ここからはもう、敵地」 「敵地って………」 敵地と天は言うけれど、懐かしいと思える空気を感じる。 宮守の、匂いだ。 ずっと俺は、ここにいた。 俺の世界はずっと、ここだけだった。 身に沁みついた、気配と匂い。 「この土地で奥宮の、ひいては先宮の目が届かない場所はない。そして、この地で最強の術者は先宮となる」 その土地の邪を集める、捨邪地。 その生きた捨邪地である奥宮は、この土地のすべてを把握しているのだろう。 そして、その奥宮とつながる先宮はこの地では最強の術者となる。 つまり、父さんに敵うものは、この地には、いなくなる。 「奥宮のシステムをどうにかしなければ、先宮には手が出せない」 結局、奥宮なのだ。 宮守のすべてを、支えているのは。 そこで、ふと気になる。 「………そういえば、先宮が先に、その、死ぬ場合はどうなるんだ?」 「先宮は中々死なないみたいよ。少なくとも、奥宮が壊れるまでは」 「え」 「どこまでやって死なないのかは知らないけど、多少の怪我はすぐ治るし、病気にもならないみたい。首切り落とすぐらいすれば死ぬかもしれないけどね」 なんだか、それでは、先宮自身、人とは違う存在のようだ。 「父さん、随分若く見えるでしょ?」 「あ………うん」 前々から叔父や叔母よりも、若く見えるとは思っていた。 母さんも若く見えるが、父さんは時にそれよりも若く見えた。 まさか、それは、先宮であるからこそ、なのか。 天が、声に笑いを混じらせる。 「老いすらも、緩やかになる」 「………」 「半分、人じゃないよね」 俺も思っていたことを、天がストレートに言う。 奥宮だけではなく、先宮も、人ならざるものになるのか。 「神剣が欲しいって言ったでしょ。奥宮だけじゃなくて、先宮も相手にするには、必要。先宮と奥宮のつながりを断ち切らないと何も出来ない」 そういえば、天が、いつか神剣が欲しいと言っていたっけ。 確か、泡影、そんな名前だったはずだ。 「まあ、奥宮を殺すのに神剣が必要というのは、俺の想像でもあるんだけどね。代替わりの儀式に必要なのは分かってる。それで、奥宮と土地のつながりを断ち切るっていうのは確かだ。だから、多分、奥宮を殺すには、あれが必要なんだ」 天が、自分でも考え込むように言う。 そうか、先宮と奥宮を廃そうなんて、考える人間は今までいなかった。 いや、いたかもしれないけど、成功することはなかった。 だから、その方法なんて、誰も分からない。 天も、手探り状態なのか。 「………奥宮は、二葉、叔母さんなんだよな。叔母さんを、殺すのか」 「アレが人だと思う?」 「………」 そう言われると、何も言えなくなってしまう。 あれは、もう人ではなかった。 むしろ、殺してと懇願していた。 思い出して、寒気が走り、体が震える。 大きな闇を抱え、苦しみもがき死を願っていた。 俺も、奥宮となったら、ああなるのか。 「それにどちらにせよ代替わりの時には、前代の奥宮は死ぬよ。殺して次代の奥宮へ引き継がせる」 死ぬ、とか、殺すとか、ほんの一年前までは、遠いものだった。 こんな何度も繰り返すような言葉では、なかった。 このな現実味がある言葉では、なかった。 「………奥宮の、システムが、壊れたらどうなるんだ」 「さあ、やったことないからわかんない。予想するとすると、抑えていた邪気があふれかえって、宮守家付近一帯が捨邪地になっちゃうのかな。闇に飲み込まれて、人が住める場所ではなくなる。そして、今まで抑えていた反動で、土地全体が荒れる、ってところかな」 宮守の土地。 それは、岡野や槇が住む、場所も含まれる。 あの二人が巻き込まれるのだけは、嫌だ。 「でもそれは、自然の摂理でしょ。人間がコントールしようって思う方がおこがましい。うちが何もしなければ、それはそれなりに荒れてる場所があったり、栄えてる場所があったりする普通の土地になるはずだよ。あるがままに、あるがままの姿になる。新しくシステムが構築される」 「………」 それは、そうなのかもしれない。 管理者がいなくなる土地も、あるらしい。 でも、その土地も一旦は荒れ、繁栄はなくなるが、それなりの秩序が作られる。 でも、それまでに、どれくらいの、時間がかかるのだろう。 それまで、俺の知る誰かが、犠牲にはならないだろうか。 それは、嫌だ。 「………」 そう考えると、やっぱり俺が奥宮になるという方向に思考が向いてしまう。 そして、四天の言葉が、偽りがないことを知って、少し笑ってしまう。 「お前は、本当に、嘘は言わないんだな」 「え?」 「周りには何も影響がないとか、適当に嘘をついて、俺を丸め込んで利用すればいいのに」 周りに犠牲が出ることを、俺が嫌うのは分かってるはずだ。 そんなことを言うのは、四天の目的のためにはならない。 でも、こいつは、ちゃんと言ってくれた。 「嘘はつかないと言ったでしょ」 ミラーごしに見る天は、肩を竦める。 「ていうかそんな3秒でばれる嘘ついても、余計に信用されないだけだし」 「確かにな」 確かに、何も影響がないと言われても、信じられるわけがない。 余計に疑念を募らせるだけだ。 でも、それでも、嘘を言われないのは、嬉しい。 「でもそっか、お前は本当に、嘘は、つかないんだよな」 「何度言えばいいの?信用ないなあ。つかないって。隠し事はするけどね」 「そうか」 天は、俺には、嘘をつかない。 それだけ、信じられるなら、いい。 信じられるものがある。 それだけで、嬉しい。 「さて、もうそろそろ着いちゃうね」 話している間にも、車は宮守家に近づいていく。 日はだいぶ落ちて、もう夕暮れだ。 そういえば、海沿いの宿は、結局泊まれなかった。 でも、海が見れただけでも、よかった。 「………三薙さん」 「大丈夫です」 志藤さんの心配そうな声に、その腕に触れて答える。 何が大丈夫か、なんて分からない。 でもこの人にこれ以上、苦痛を与えたくない。 もう、とっくに手遅れだけど。 「志藤さん」 「はい」 天が後部座席から、声をかける。 「あなたは、何を聞かれても知らぬ存ぜぬで通してください」 「………はい」 「あなたは、何も知らない。兄さんとも関わりはない。俺が何をしようとしているかなんてもちろん分からない。ただ、運転手として着いてきただけだ」 「ですが」 「あなたに何かがあると、俺も兄さんもいざという時に力を借りることが出来ない。あなたは、自由の身でいてください。まあ、だいぶ疑われてるだろうけど」 「………はい」 俺と天に深いつながりがあると思われると、志藤さんにも迷惑がかかる。 ここで、終わりだ。 ここで、この人の手を、いったん放す。 「縁、さん」 「………っ、はい」 「ありがとうございます。俺は、あなたに会えて嬉しかった。あなたに触れることができて嬉しかった。あなたへ、恋のような気持ちを知ることが出来て、嬉しかった」 ああ、これじゃ、今生の別れだ。 この人にまた負担をかけることになる。 隣を見ると、今にも泣きそうな顔で強張っている。 「なんか、別れの言葉みたいになっちゃいましたね。別れじゃ、ありません。感謝の気持ちです。今回、旅に付き合ってくれてありがとうございました」 運転の邪魔をしないように、そっとギアを握るその手に触れる。 「ありがとう。好きです」 「あなたは、残酷です………っ」 「………ですね」 ああ、本当に俺は、最低だ。 別れじゃないと言いながら、これが別れかもしれないと思っている。 この人の手を離すのは、俺だって嫌だ。 でも、この人がこれ以上、苦しむ姿も、見ているのは、耐えられない。 「もう、家です。志藤さん、何かあったら、あなたに助けを求めます。だから、それまで、どうか無茶はしないでください。あなたが怪我とかしたら、俺は嫌です」 志藤さんが唇を噛みしめる。 それでも、家の前に、ゆるゆると、車を止める。 「その通り。下手打って放逐とかならないでください。俺は、あなたの力を必要としてます。あ、でかい荷物はお願いしますね」 天が笑い交じりで言って、止まった車からさっさと出てしまう。 こいつがここまで言うなんて、本当に志藤さんを信頼しているんだな。 志藤さんが、どうか天の支えになってくれるといい。 天の目的を手伝うかどうかは、また別の話だけど。 「では、また」 最後に志藤さんの手にもう一度触れると、志藤さんの手が俺の手をぎゅっと掴む。 「………いかないで、ください」 「………」 志藤さんの目が縋るように、俺を見つめる。 その目に囚われて、このまま車にのって、遠くへ行ってしまいたくなる。 「またすぐ会えます」 何とか笑って、答えようとする。 けど、それは、俺が何より嫌ったものだ。 これがこの人のためになるかは分からないが、俺を好きになってくれたこの人のために、本当のことを告げたい。 「………なんて嘘ですね。会えないかもしれない」 「………っ」 もう会えないかもしれない。 外に出してもらえないかもしれない。 志藤さんに近づくことは、出来ないかもしれない。 この人を好きになった。 この人に好きになってもらった。 それが、嬉しかった。 話したいこと、伝えたいことが、沢山ある。 伝えきれない。 何を伝えたらいいか分からない。 時間はない。 この人に、何を一番、伝えなきゃいけないだろう。 「………」 少しだけ、考えて、一番伝えたいことを告げる。 泣きそうな目をしている志藤さんを見つめる。 「志藤さん………、縁さん、幸せになってください。あなたが幸せで笑っていてくれることが、俺の望みです。縁さんの心のままに、自由に生きてください。あなたはとても強くて頭がよくて優しくて、すごい人です。尊敬してます。大好きです。縁さんはなんだって出来る人です。何にも囚われず、生きていける人です」 俺とは違って強く優しく賢いこの人は、なんだって出来るだろう。 何にだってなれるだろう。 「どうか、幸せになってください。そして出来れば、俺を覚えていてください。俺があなたを好きだったことを覚えていてください」 忘れてくれと言いたくなる。 俺のことなんて忘れていいから、幸せになってほしい、と。 でも、それだと、この前の想いを、記憶を、否定することになる。 それは、したくない。 「傷をつけてごめんなさい。大好きです。だから、幸せになってください」 でも、俺だけに囚われないで。 記憶のすみっこに置いておいてくれるだけでいい。 「………酷い、人です。私にはあなたが存在しない幸せなんて、有り得ないのに」 「そんなこと言わないで、ください。どうか、いつか、もっと多くの人を愛して、幸せになってください」 「あなたは、酷い人です」 「はい。最低なやつで、ごめんなさい。大好きです」 最後に手をもう一度ぎゅっと握って、後部座席においてあった荷物を手にとって俺も車から降りる。 ちらりと見えた志藤さんは、ハンドルに顔を埋めているように見えた。 ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい。 苦しくて、息が出来ない。 「いいの?」 「………うん、大丈夫」 外で待っていた天に、聞かれて頷く。 これで、いい。 志藤さんと逃げる覚悟がない以上、これしかない。 「じゃあ、帰ろうか。温かい我が家に」 「………うん」 自分のバッグと、この前の旅館でもらった濡れた衣類を入れた紙袋を抱えて、門に足を向ける。 まるで蛇が口を開けて飲みこもうとしているようにも見える。 怖くて、足が竦んで立ち止まってしまう。 「大丈夫?………何これ」 隣を歩いていた天が、立ち止まった俺に合わせて振り返る。 そして、俺の持っていた紙袋に目を向けた。 紙袋の一番上にあった、お守りをつまみあげ、眉を顰める。 「あ、忘れてた。一兄からもらったお守り。そういえば川に落ちた時にずぶ濡れになったから乾かそうって思って、すっかり忘れてた」 「………」 天が、ますます眉間に皺を寄せる。 そしてそのお守りを乱暴な手つきで取り出す。 「忘れてた、か。兄さんらしくないよね」 「え」 「一矢兄さんからもらったなんて大事なものを、そんな扱いするのは、らしくない」 そんなことを言いながら、お守りを握り、じっと見据える。 「やっぱり」 「え」 「守りの呪と、隠形術がかかってる」 隠形の術というと、人から見えないようにしたりする術だ。 お守りにかけるということは、このお守りを隠そうとしているということか。 でも、お守りの存在はすでに知っているし、こんな堂々とここにある。 どういうことだかよく分からなくて、天をじっと見つめる。 「隠すというより、このお守りが意識されないようにするような感じかな」 「あ」 天は言いながら、さっさとお守りを開いた。 そして中に入っていた札を取り出す。 それは母さんの札をまるめたような、紙を折りたたんだような形状だった。 天はすぐにその紙も広げてしまう。 それから、こちらを見て、苦々しく笑った。 「やられた」 「なに」 天は紙に包まれていたらしい小さな機械を取り出しこちらに見せる。 丸くて薄い、ボタン型電池のような形だ。 「なに、それ」 「俺も初めて見たけど、これ盗聴器とかいうやつかな。ずいぶん小さいんだ」 「盗聴器って………」 言われている意味が、よく分からない。 でも、ざわりと、全身に鳥肌が立つ。 「ずぶ濡れになった、か。川に落ちたのは、二日目だったね。そういえばあそこからつけてくる車はいなくなった」 天と志藤さんが、車がつけてきているとか、言ってたっけ。 どういうことだ。 何を言ってるんだ。 「一日目は、何を話したっけ。ああ、俺が全部兄さんに打ち明けた日だ」 「え」 「全部知られたと思っていいのかな」 天はやはり、焦る様子なく分析している。 頭がガンガンとして、痛い。 何を言ってるんだ。 何が、知られた。 どうして。 何が。 「天、大丈夫、なのか」 「どっちにしろ、もう手遅れ。この土地に入ったら、ここまで近づいたら、下手なことは出来ない。逃げられないよ」 天は笑いながら、肩を竦める。 どうして、そんな冷静なんだ。 だって、俺はいい。 俺は、どちらにせよ、奥宮になるか、ならないか。 それだけだ。 でも、天は、違う。 「だって、天、お前は、大丈夫、なのか」 「ま、俺が死ぬようなことはないと思うよ。たぶんね」 「でも」 言いかけたその時、天が視線を玄関の方に向ける。 同時に、門の奥の玄関が、からからと音を立てて開く。 玄関と対峙するように咄嗟に身を引く。 「お帰り、三薙、四天」 玄関から出てきたのは、誰より信頼し敬愛し憧れていた長兄。 けれど今、穏やかに笑う一兄が得体の知れないモノに見えた。 |