「あ、またこんなところでメシ食ってる」 ふりかえった清水真衣は、相変わらずつまらなそうな顔をしていた。 あれから、裏庭に清水真衣をはじめて見た時から、昼休みに彼女を観察することが多くなった。 メシ食った後で時間がある時とか、時には旧校舎でメシ食ったりして。 俺も色々付き合いあるし、行かない日のほうが多かった。 それほど積極的でもなく、かといってやっぱり興味があって。 清水真衣を、なんとなく見ていた。 そう、俺は、間違いなく清水真衣に興味があった。 清水真衣は裏庭では寝ていることが多かった。 制服に埋もれているようにも見える華奢な体をベンチに横たえて。 木陰の中、静かに目を閉じる清水真衣は頼りなくて、なんだか子供みたいだった。 メシはいつもコンビニ。 弁当はあんまり買わない。 パンとかおにぎりとか、サラダ。お惣菜系も好きみたいだ。 たまにファストフード。でも冷えたポテトに顔をしかめていた。 女の子らしく甘いもの好きみたいで、デザートを買うことは多かった。 たまに食べない。 ただ寝てる。 だからあんな細っちんだろうな。 寝てない時はボーっとしてる。 本を読んだりしてることもあるけど、寝てるかボーっとしてるかだ。 何が楽しんだかよく分からん。 何、考えてるんだろう。 そして時々、清水真衣は面白い。 雀に、パンをやっていたことがあった。 というか、パン目当てに近寄ってきた雀を驚かせて追い払って遊んでいた。 性格わる! と思ったらその後、パンを半分ぐらい細かく千切って捨てていっていた。 うけた。 ベンチからちょっと離れたところにあるゴミ箱に、ゴミを投げたことがあった。 ゴミはゴミ箱の縁にあたって、はじかれた。 清水真衣は、ちょっと眉をあげて、不機嫌そうに顔をしかめた。 そして、そのまま不機嫌そうにその場を去っていった。 マナーわる! と思ったらその後しばらくしてもどってきて、ゴミ箱に入れなおして帰っていった。 うけた。 落ちてくる葉っぱを捕まえようとしてこけたことがあった。 本気で寝てしまったらしく、ベンチから落ちたことがあった。 猫にから揚げを取られたことがあった。 清水真衣、マジおもしろい。 そう思うようになるまで、時間はかからなかった。 そんなこんなで、どれくらい観察を続けていただろうか。 俺は、彼女にもっと近づきたくなった。 いつも教室では本を読むか外を眺めるかしかしていない清水真衣。 ほとんど教室にもいないし、地味で目立たない。 ただ、弟の存在とその浮きようが目立つといえば目立っていたが。 それが、こんな短い時間で、こんなにも色々な様子を見せてくれる。 それなら、もっと近づけば、もっと色々な顔を見れるだろうか。 彼女は、いつもあそこで何を考えているんだろか。 何に興味を持っているんだろうか。 なんで、時折あんなに寂しげな顔をしているのだろうか。 どんな顔で、笑うんだろうか。 それは好奇心。 それは野次馬根性。 決して親切心でも優しい心でもない。 じりじりと、俺の中にいつも燻っているものが顔を見せる。 いつも、友達には悪い癖だといわれるんだけど。 それでも、俺は清水真衣に近づいてみたかった。 寂しげな表情で、何を求めているのか知りたかった。 彼女の笑った顔が見てみたかった。 彼女を、笑わせてみたかった。 「……あんた、誰?」 俺を見て訝しげな顔をした清水真衣。 後ろの席だというのに、まったく覚えられていないことに正直ショックをうけた。 俺、結構目立つタイプだと思うんだけど。 けどまあ、それ以上に、潔く完璧に周りを遮断してるむしろ清水に感心した。 そこまでやればいっそ爽やかだ。 まあ、覚えてなかったからって腹は立たないけど。 それに別に話しかけていきなり話がはずむとも思ってなかったし。 今回でお近づきになれればいいでしょう。 けれど、怪訝な顔をしながらもあまり拒絶を示さない清水が予想外だった。 絶対に人と話したくない、というわけではないのだろうか。 「何が?」 「いや、俺を知らないって」 「え?あの……」 戸惑った顔をする清水。 本当に素晴らしいアウトオブ眼中。 本気で覚えてないらしい。 すごいぜ清水。 「ずっと前の席に座ってるじゃーん!」 しまった、というように目を見開く清水。 結構表情が豊かだ。 思ったよりも反応がいいから、俺は調子にのっていつものように半分拗ねてみせる。 「ひでえ………」 すると清水は、微かに頬を緩めた。 眉が下がって、眉間の皺が消える。 それは微かな変化。 ほんの少しの筋肉が動いただけ だけど不機嫌な顔が一変して、いきなり穏やかな印象にかわった。 見てみたかった、清水真衣の笑った顔。 それは想像していたよりずっとずっと、かわいくて。 俺も自然と心が浮きたって、顔がにやけた。 うん、もっと笑った顔が見てみたい。 もっと笑って欲しい。 笑わせたい。 清水真衣を、笑わせたかった。 |