不器用で、無愛想で、口が悪くて、なのに口下手で変に素直で。 疑り深くて、用心深くて、それでいてどこか無防備で。 人を遠ざけるくせに、寂しがり屋で。 冷たいくせに、結構ノリがよくて、軽口にもついてきて。 いつもつまらなそうな無表情なくせに、笑うとやけにかわいくなって。 清水真衣は、支配欲と保護欲をやけにそそる少女だった。 そのアンバランスさに、心引かれた。 いつも不安げで頼りなく揺れる目が、俺を見て穏やかにほどけるのが、何より心地よかった。 迷子の子供のように心細そうな表情を、溶かしてしまうのが楽しかった。 人に頼られるのは大好きだ。 それは優越感と、男のプライドをいたく満足させてくれる。 そして俺は好奇心が強い。 野次馬根性も旺盛だ。 心からの優しさや、親切心なんて俺は持っていない。 清水に頼らせて、守ってる気分に浸りたい。 清水の顔を曇らせる原因を突き止めて暴いてしまいたい。 優越感と好奇心が、心をくすぐる。 だから、清水は俺にとってとても魅力的な人間だった。 俺は、自分が利己的な人間だということを知っている。 自分のことが大事な人間だということを知っている。 偽善、という言葉が似合う人間だということを知っている。 そんな計算高い自分が少しイヤになる時もある。 でも、それで需要と供給があうなら、それでいいんじゃないか、とも思っている。 清水に優しくしたい。 清水の不安を溶かしてしまいたい。 清水に笑ってもらいたい。 笑わせてあげたい。 それは間違いなく、確かな気持ち。 やらぬ善より、やる偽善。 俺の満足感で、清水の寂しさが薄れるなら、それでいいじゃないか。 いつでも不安げに揺れている清水。 愛情を何よりも欲しがっている清水。 自分だけを見つめる存在を、欲しがっている清水。 その空っぽで飢えた心に、愛情を注ぎ込もう。 優しく温かいもので満たそう。 楽しくて、心躍るものでいっぱいにしてしまおう。 そんなじめじめした場所から引っ張り出して、明るい場所に連れて行ってしまおう。 そうしたら、清水真衣。 君はその飢えと執着を、俺に向けてくれるのかな。 清水真衣が歪な理由は、すぐに分かった。 幼い頃のトラウマ。 弟に対する強すぎる執着。 完璧な弟へ対するコンプレックス。 両親の愛情を独り占めする憎い存在。 それでも実質唯一の家族。 ただ1人、優しくしてくれる人間。 傍にいてくれた、弟。 その複雑な感情が、清水真衣を苦しませ歪ませる。 そして俺はその複雑な感情に、触れてみたくてたまらない。 「千尋は嫌い。だから邪魔するんだ」 苦しげに顔を歪めて、吐き捨てるように弟をなじる清水。 その顔は、今まで見てきたどんなものよりも複雑で醜かった。 「千尋は嫌い。大嫌い。千尋1人がもっと幸せになるのも許せない。千尋はただでさえ、恵まれてて、幸せなんだから、少しくらい不幸になればいい」 そんな醜い感情をこぼすくせに、清水真衣は哀しげで苦しげだ。 そしてくしゃりと顔を歪める。 いつか旧校舎の2階から覗き見た、心引かれる今にも泣きそうな顔。 「………それに、千尋がいなくなったら、私どうしようもなくる。置いていかれるなんて、耐えられない。」 震える声に、それでも涙はこぼさなかった。 その姿は保護欲を掻き立てて、思わず抱きしめたくなる。 弟に病んだ執着を持つ清水真衣が、哀れで愛おしかった。 苦しげに歪んだ顔を、笑顔に変えてあげたい。 重すぎる荷物を、下ろしてあげたい。 愛情というほどまだ重くない。 同情だけというほど、テンションは低くない。 好奇心と愛おしさ。 支配欲と保護欲。 「人間って、結構、1人にはなれないものだよ?どんなに望んでもね」 だから清水真衣。 見せてよ、もっといろんな顔を。 もっと色々な世界を見て、楽しいことを知った清水は、どんなにかわいくなるのかな。 歪んだ心から解放されたとき、君はどんな顔をしてるのかな。 弟へ対する執着は、どんな風に変わるんだろう。 「そっかな」 清水真衣は、まだ顔を不安に曇らせていたけど、どこか呆けたようにつぶやく。 その顔が、子供のようにあどけなくて、守ってあげたくなる。 だから俺は、正直に答える。 「そうそう。それに面白そうだし、俺はお話聞くよ?野次馬根性だけど」 それは心からの言葉。 愛情というほどまだ重くない。 同情だけというほど、テンションは低くない。 好奇心と愛おしさ。 支配欲と保護欲。 ねえ清水真衣。 君の感情に触れたいです。 |