案の定、夜になって、長兄は弟たちをひきつれて3人で様子を見にきた。
なんて予想通りな、行動。
出来の悪い頭しか持たない兄弟に、笑えてくる。
血を分けた兄弟がこんな馬鹿では、俺が馬鹿なのも仕方ない。

にやにやと笑いながら、長兄が部屋に入ってきた。
金魚のフンのように、弟2人も一緒に入ってくる。

「おい、お前のお仲間どうしたんだよ」
「あの薄汚い犬、どこにいったんだ?」
「お兄ちゃんのかわいいかわいいお友達」

口々に言いながら勝手に部屋に入ってくる。
そして、一瞬動きを止めた。
俺の全身は血まみれだ。
あいつの血と肉で、彩られている。
このままあいつの匂いが、なくならなきゃいいのに。
きっとこの匂いもお前の温かさも、すぐに失われてしまう。

「お、前……」

あっけに取られたのか、兄弟は眼を丸くした。
俺は、3人の探しているものを顎でさす。

「そこだ」

3人はつられて振り返る。
部屋の隅には赤黒く生臭い、犬だったモノ。

俺に背を向けて、隙だらけの3人。
後ろ手に持っていた木刀で、まず長兄を狙った。
脳天をついて、倒れさせる。

そして、次兄と末弟が反応できない間に、その腕と足を折って行動を制した。
ばきりと、小気味いい音がする。
耳障りな汚い声で叫ぶ長兄。
ああうるさい。
自分の痛みには弱い、クズ。

「な、何をする!」

いつもは何も反抗しない俺の行動に、次兄と末弟は眼を見開いている。
遅い。
しつけをされた犬ですら噛みつくくらい、知らないのか。
犬以下のケダモノに、しつけなんてされている訳がない。

反応できないまま慌てる次兄の喉を狙う。
ぐっと息が詰まる音がして、何かが潰れる感触がした。
次兄が喉を押さえてうずくまる。
その肩を砕き、頭を打った。
次兄も不様に倒れこむ。
気絶させはしない。

あいつは、意識のあるまま嬲られた。
こんなものでは、足りない。

もっと、思い知らせる。

最後に末弟に視線をやる。
完全に怯えきって、震えていた。
俺より2つ下の、小さな弟。
だが、そんなことはどうでもいい。
こいつも、柳瀬の血を引く男だ。

急いで逃げ出そうとするから、その小さい体を思いきり蹴りつけた。
ぐぁ、と濁った声を出して、その場に倒れる。
蹴りつけて仰向けにする。
小さく細い体は簡単に転がる。
あばらが、折れた感触がした。

「いたああああいいいい!!!」

甲高い声で泣き出すから、うるさくてその口に木刀を突っ込む。
堅いものが割れる音がして、口から血が溢れだす。
それでようやく静かになった。

「痛いか?」

口をふさがれた弟は、大きな目を丸くして俺を見上げている。
怯えでいっぱいの目は、涙が絶えず流れている。
開きっぱなしの口からは涎と血がだらだらと垂れている。
きたねえ、ウジ虫。

「歯が折れたな。まあ、乳歯だろ。また生えるさ」

小さな体が喉を押さえるようにして、足の下で跳ねた。
血が喉に溢れて、苦しいのか。
ガタガタと震えている。
小さく首を横にふる。
何かを訴えるように、もごもごと何かを言ってる。
だが、聞こえない。
ああ、だが、うめき声が耳触りだ。
面倒だ、このまま木刀をつっこんでしまえばいい。

「苦しそうだな。大丈夫、すぐに楽になるさ」

そして木刀に力を込めた瞬間、障子が開かれ誰かが入ってきた。
潮時か。
長兄がまだ不様に転がって叫んでるしな。
誰かが来る頃だったろう。

まだ足りないが、仕方ない。
またいつでも機会はある。
俺が父に殺されなければ。

「何をしている!?」

長兄のボディーガードだ。
俺は木刀をひいて、最後に弟をもう一度蹴りつけた。
火がついたように、泣き叫ぶ弟。
ボディーガードは俺を取り押さえて、周りの人間を呼んでいる。

俺は、拘束されながら、隅に転がる犬に視線を送って、目を閉じた。
血まみれの肉塊は、こんなことをしても、動かない。

もしやり直せるなら、次は絶対、守り通す。
例え俺が死んでも、お前を守るから。
だから、戻ってきて。
俺を、犬以下の存在にしないでくれ。
頼むから、俺をモノにしないで。

でも、どんなに祈っても、やっぱり時は戻らない。
やり直せない。
もう吠えない。
舐めない。
一緒に喜んでくれない。
俺はやっぱり、犬以下の存在。

ああ、ごめん。
ごめんな。
本当に、ごめん。

だから俺はただ、謝った。
お前は、俺になんか、会わなければよかった。

でも、俺は、お前に何もかも与えたかったんだ。
餌を与えてあげたかった。
寝床を与えてやりたかった。
お前がくれた温かさを、それ以上に返したかった。

お前を幸せな犬で、いさせてやりたかったんだ。






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