「本当に、由紀はいいねえ、藤原君みたいなかっこいい彼氏がいてさ」
「あ、ははははは」

藤原君が横にいるのに、そんな言葉を投げてくる美香。
私は笑ってごまかすしか他ない。
ちらりと藤原君を横目で見ると、藤原君も照れたように苦笑いしていた。
そこに癇に障るかすれた声が入ってくる。

「本当に、三田にはもったいないよな」
「うるせえ、野口!」

私と藤原君と美香の間に入ってくるお邪魔虫。
それがこいつ、野口だった。

この男、野口良は性格が悪い。
陰険で口が悪く、冷たくて情がない。
眼鏡で、性格が顔に表れている暗そうな男だ。

野口は野良猫だ。
気取っていてとらえどころがなく、残酷で気まぐれ。
大人しげな外見とは裏腹に攻撃性が強くて、警戒心が強い。
近づく人間に気まぐれに爪をたて、傷つける。

どうしてこんな奴が藤原君の友達だが分からないが、二人はどうやら親友らしい。
本当に認めたくないが。
私と美香がつるむと、藤原君も野口とつるむのでどうしても一緒になってしまう。
本当に、邪魔だ。

放課後、私たちは最近一緒にいることが多い。
今も、私と藤原君、美香、ついでに野口の4人でいる。

「お前は黙ってろ!」
「なんであんたに行動制限されなきゃいけないんですか?」
「私がむかつくからだ!」
「自己中もここまでいくと清々しいな。本当に藤原にはもったいない、彼女だよ」
「お前マジ一回殺す!」

本当にむかつくし、うざいし、うるさい。
一回本気で存在を抹消してやろうかとも思う。

でも、野口には気を使わないでなんでも言える。
私はこいつが嫌いだからだ。
こいつに嫌われても痛くもかゆくもないので、なんでも言えるし、殴れるし蹴れる。
だから、気を使わないでいられる。
ある意味、気が楽だ。

藤原君だけだったら、私は緊張して何も話せなくなってしまう。
それに、失敗ばかりしてしまう。
だから、野口の存在は、ものっすっごい癪だが正直ほんの少し助かっていたりもした。

「本当に由紀って、野口君には乱暴だよね」
「俺だけじゃなくて、藤原以外のすべての男に乱暴だろ、三田は」
「あ、ははは」

由紀が茶々をいれて、野口が呆れたように肩をすくめる。
藤原君は困ったように笑う。

「うるさい!お前に使う気なんてない!」
「正直だな。もう少し女の媚を身につけた方が世の中うまく渡れるぜ」

そのまま私と野口はいつものように口論になる。
自然と私と野口は並んで、美香と藤原君が並ぶ。
それがなんとなく、いつものポジション。

「もう、由紀ってばいっつもああなんだから。ごめんね藤原君」
「いいよ、野口が悪いし。あいつも、三田にはなんかつっかかるんだよな」

二人が楽しそうに話す声が、後ろから聞こえる。
だから、野口は助かるのだ。
ムカついてうざくてうるさいのだが、助かる。

私がどこにいていいのか、迷わなくていいから。





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