シュルシュルと音を立てて、黒い触手が、体に絡みついてくる。 するするといやらしく体を這いまわり、また口の中に入ってこようとする。 必死で口を閉じてもこじ開けられて、さっきよりも細いが束になって黒いものが入り込んでくる。 「う、ぐ、うえ」 鼻からも入ってこようとする。 気持ち悪い気持ち悪い。 吐きそうだ。 痛い。 先ほどのものも、腹の中で暴れている。 じわじわと、酸で少しづつ溶かされているような緩やかな、けれど確かな痛み。 嫌だ。 助けて。 助けて助けて助けて。 涙がボロボロ出てくる。 怖い怖い怖い。 助けて助けて助けて。 もう力は練れない。 動けない。 このまま、じわじわと喰われるのか。 その前に、緩慢な痛みに狂う方がさきか。 もう、佐藤もどうでもいい。 何、ヒーローぶってたんだよ。 かわいくて、好きだった、クラスメイト。 でも、ただそれだけだ。 俺とはなんの関係もない人間だ。 なんで助けよう、なんて思っちゃんたんだ。 弱っちいくせに、なんで出来ると思っちゃったんだ。 自分の身すら守れない、クズのくせに。 いつもだったら見て見ぬふりが出来たのに。 そうだ、なんでだ。 いつもだったら、たとえ止められなかったとしても、見て見ぬふりが出来た。 たとえ、あいつらがどうなろうと、それすらも見て見ぬふりができた。 そうして生きてきたんだ。 それしか、俺にはできないから。 昔から、何度も後悔してきたことだ。 目の前で、誰も救えない。 俺の手では、誰ひとり救えない。 だから、もう見えないふりをするって。 俺が何かをすれば、誰かに迷惑がかかるだけだから。 なのに、なんで。 いつも、失敗ばかりだ。 こんな風に、失敗して終わるのか。 嫌だ。 助けて。 死にたくない。 助けて、一兄、双兄。 助けて助けて、父さん母さん。 一兄、一兄。 「て、ん」 喉の奥に押しこまれて圧迫される口から、無理矢理声を引き絞る。 こんな時に、いつも俺を救ってくれた、人間の名前を呼ぶ。 「てん、……てん」 だめだ、もう声が出ない。 助けて、誰か。 死にたくない。 こんな風に、ゴミみたいに死にたくない。 「てん……っ!」 助けて。 俺を、助けて。 |