「面倒くさいことばっかりだけど、あんたを見てるのは割りと楽しい」 女は大嫌い。 ひがみっぽくて、人の陰口叩くことだけに少ない脳みそを使う。 そのくせ男には好かれたくて、それが叶わないと人のせいにする。 そのブサイクな顔も、たるみきったお腹も、私だったら耐えられない。 せめて隠す努力をしたらどうなんだろう。 何もしないくせに、人を羨み恨むのだ。 とても付き合っていられない。 せいぜい私の引き立て役になればいい。 私の可愛さを引き立てるには、ちょうどいいかもしれない。 ああ、1つだけ女にもいいことがあった。 あの恨みに満ちた、嫉妬の目で見られることは、とてもつもなく気持ちがいい。 私を褒め称える賞賛と同じぐらい。 もっともっと嫉妬すればいい。 つまりそれは、私の美しさを認めること。 女の存在価値なんて、それぐらいだ。 「真理」 高く、少しかすれた声。 私を真理と呼ぶのは1人だけ。 振り向くと、メガネをかけたどこかぼんやりとした印象の長身の女が立っていた。 メガネをかけた下の顔は、目立たないながら、とても整っている。 私以外の、綺麗な女も嫌い。 私は、私が一番綺麗じゃないと、いや。 だから、この女の顔を見るたびに、いつもちょっとだけ腹が立つ。 まあ、私のほうがずっとずっと綺麗で、かわいいけれど。 「日和」 「今、帰り?」 「うん、そうだけど?」 「一緒に帰ろうか」 この女とはもうかれこれ5年以上付き合いが続いている。 いつ出合ったかなんてどうでもいいこと覚えていないけど、気がついたら傍にいた。 1つ年上の女とは、全く接点も共通点もない。 いつでもダルそうで、目立たなくて、大人しい。 成績は割りといいし、運動神経も悪くない。 けれど、なぜか目立たない。どこまでも印象の薄い女。 長年付き合ってみて分かったけど、わざとそうしているふしもある。 目立つことが、何より嫌なようだ。 いや、女の言葉を借りれば「面倒くさい」だろうか。 それなのに、私のような人間の傍にいる。 自慢じゃないが、私は人に好かれる、特に女に好かれるような要素はない。 どんな暴言を投げかけても、どんな行動をしても、この女が離れることはない。 私はいい意味でも悪い意味でも目立つ人間だ。 それに、扱いやすい人間でもない。 とても、面倒くさいだろう。 女の行動は、意味が分からない。 だからといって別に私を特別庇うようなこともないし、特別執着するようなこともない。 気がついたら傍にいるし、邪魔な時は他所へ行く。 全く、変な女。 大嫌いな『女』だ。 好きではない。 けれど、嫌いではない。 「ねえ、日和、私はかわいい?」 だって、こう聞くと、日和は必ずこう応えるから。 うっすらと笑って、どこか呆れたように、それでも心の篭もった言葉で。 「真理は、かわいいよ」 その言葉は、私をとても満たしてくれる。 体の隅々まで満ち足りた気持ちがが染み渡る。 男からの軽薄な「かわいい」の10倍ぐらいは価値がある。 なぜかは分からない。 でも、日和の言葉はとてもとても私を満足させる。 いつも何にも興味なく、ただ面倒くさそうに生きている女の確かな言葉だからかもしれない。 間違いなく整った顔をした日和の言葉だから、優越感がくすぐられるのかもしれない。 私を満足させてくれるなら、傍にいても許してあげる。 だから、大嫌いな『女』だけど、日和は傍にいてもいい。 友人なんてものじゃない。 けれど、ただの知り合いよりはちょっと近しい関係。 隣に並んで歩く。 話すのはほとんど私。 日和は面倒くさそうに相槌を打つ。 なんで一緒にいるのか分からない。 でも、居心地は悪くない。 私は隣のすらりとした女に目をむけると、何気なく聞いた。 別に、そこまで興味もなかった。 「あんた、面倒くさいこと嫌いでしょ」 「大嫌い」 「なら、なんであたしの傍にいるの?」 日和は目をぱちぱちと瞬く。 穏やかであまり感情を表に表さない女の驚きの表情だ。 少し首をかしげると、穏やかな表情のままどうでもよさそうに言葉を続ける。 「面倒くさいことばっかりだけど、あんたを見てるのは割りと楽しい」 それはまた、予想外の言葉。 今度はこちらが目を瞬かせる。 意味が分からない。 「何それ?」 「さあ?なんだろうね」 そう言って、微かに笑う。 疑問に疑問で返される。 どこかとらえどころのない女。 空気のような目立たない女。 居心地は悪くない。 好きではないけど、嫌いではない。 それでもやっぱり。 「変な女」 |