カウント7。 朝の、いつもの交差点。 でも、時間はいつもよりちょっと遅い。 今日は休日だから、学校はない。 だけど今日も、私は友ちゃんを待っている。 うああああ、緊張する。 はじめての、友ちゃんとのデートだ。 いや、デートはしていたけれど、休日に約束して出かける、なんてはじめて。 すっごい、心臓バクバクだ。 最初で最後の休日デート。 精一杯楽しく、過ごすぞ。 頑張るぞ。 バイト代奮発して、いざという時のために買っていたワンピを着た。 化粧も、ばっちりした。 とっておきの、ビーズアクセを付ける。 変じゃないかな。 お母さんに、10回は確認したから、大丈夫だとは思う。 待ち合わせ場所に、1時間も前についちゃった。 昨日はわくわくして眠れなかった。 ゴロゴロして、明日の用意が気になって起きて、またゴロゴロして。 気づいたら朝だった。 だからちょっと肌が荒れて化粧ノリが悪かった。 大丈夫かな。 目立たない程度だって、言ってたけど。 ああ、それにしても緊張する。 こうやって待っているのも、楽しいんだけど、緊張して出かける前に消耗しちゃいそう。 トイレ行きたくなってきた。 後何分だろう。 後30分か。 トイレ行こうかな。 平気だよね。 まだまだ来ないはず。 て。 あれ。 いつもの交差点に、友ちゃんの姿が見える。 眠そうな顔をして、ひらひらと手をふっている。 「おはよ」 「お、おはよ!」 私は腕時計で時間を確認する。 やっぱりまだ、30分前だ。 友ちゃんは時間にきっちりしている。 待ち合わせの5分前にはあらわれる。 けれど、早すぎる。 「ど、どうしたの?早いよ」 「お前こそ、何分前に来てた」 「え、えっと」 「1時間前?」 「う、うん………」 友ちゃんは大きくため息をついた。 あ、ひかれたかな。 そ、そうだよね。 さすがに1時間前は痛いよね。 うわあ、正直に言わなきゃよかった。 「ばーか」 友ちゃんがこつんと、頭を拳で殴る。 これは、怒ってないかな。 こうする時の友ちゃんは、機嫌は悪くない。 だ、大丈夫かな。 「お前のことだから30分前には来るだろうと思って、来てみたら」 「え」 「1時間前はさすがに予想外だった」 う、うわ。 こんなに早く来たのは、私の行動を読んでのことだったのか。 顔があっつくなる。 胸がほっこりあったかくなる。 友ちゃんが、私のことを思って、早く来てくれた。 友ちゃんが、私のことを考えてくれた。 なんて嬉しいんだろう。 ずっとずっと、友ちゃんは私が何を考えているかなんて、興味なかった。 「あ、ありがとう」 「何が?」 「あのね、私のバカな行動、分かってくれて、ありがとう」 一瞬友ちゃんは目を丸くした。 そして、再度大きなため息をつく。 呆れたような顔でもう一度拳で頭を叩いた。 「本当に、馬鹿」 「えへへ、うん」 何を言われても堪えない。 嬉しくて、つい顔がにやけてしまう。 友ちゃんに、殴られるのは好き。 親しいって感じがする。 ああ、嬉しくてたまらない。 ふわふわとクリームみたいに甘くて、蕩けてしまいそう。 「いいか、次待ち合わせ15分前以前に来たら、殴るからな」 「え!」 「いいな」 どうしよう、次がないって分かっているけれど、それは辛い。 たとえ口約束でも、約束するのは難しい。 万一友ちゃんを待たせるようなことになったら、と考えるとたまらない。 「せ、せめて30分!」 「だめ」 「に、25分」 「かわらねーだろ」 「23分!」 「おい」 友ちゃんは、なおも交渉しようとする私にまたこつんと頭を叩く。 そして、私の手をとって、歩きだす。 「せっかく早く来たんだから、早く行こう」 「あ、う、うん」 友ちゃんが歩く。 私は慌てて、それについてく。 ちょっとだけかけて、友ちゃんの隣に収まる。 半歩後ろではない。 隣、だ。 「えへへ」 「どうした?」 「友ちゃんの隣にいれて、嬉しいなって」 「そっか」 「うん、そうだよ」 友ちゃんがいつものように、無表情で頷く。 だから私も力いっぱい頷く。 本当に嬉しい。 なんて、嬉しい。 「今日は一日中、隣だな」 「うん!」 そうだ、学校帰りの一時じゃない。 今日は一日中、ずっとずっと一緒。 ずっとずっと、隣。 いっぱいおしゃべりできる。 いっぱい、見ていられる。 「友ちゃん大好き」 「うん」 「大好きです」 友ちゃんが頷く。 だから、嬉しい。 今日も嬉しいことでいっぱい。 きっとずっと、嬉しいことでいっぱい。 嬉しいことで、溢れかえってしまいそう。 「じゃ、次は10分前以前にはくるなよ」 「え!さっきより短くなってるよ!」 「それくらいで普通だろ」 「だって、途中で、ほら、電車が遅延でもしたら」 「お前の家と俺の家の間で、なんの電車に乗るんだよ」 「じ、事故とか」 「待ち合わせどころじゃねーだろ」 「あ、えっと、落とし穴とか!」 「お前はどこの戦場に住んでるんだ」 「せ、せめて、21分!」 「頼むから20分は切ってくれ」 こんな他愛のない会話が、楽しい。 最初の休日デート 最後の休日デート。 今日はいっぱいお話しよう。 今日はいっぱい思い出を作ろう。 きっときっと、今日も楽しいことでいっぱい。 だから私はずっと笑顔でいれるだろう。 後、残り6。 |