「こんばんは、三薙」 「双姉。こんばんは」 温かみを感じる乳白色の世界。 白いワンピースを着た双姉が手をひらひらと振る。 ほっそりとした長身と柔和な女性的な顔立ちは、やっぱり双兄によく似ていると思った。 「双姉は大丈夫?」 「ええ、よく休んだから大丈夫よ。ありがとう」 「それなら、いいんだけど………」 俺の供給もしてもらったし、疲れていないかが心配だ。 人の夢に潜る、夢問いは力をとても使うらしいから。 けれど双姉は細い腕に力拳を作るようにぐっと力を入れる。 「お姉ちゃんとお兄ちゃんをそんなに舐めないでちょうだい!確かに兄さんや四天ほどの力はないけど、宮守宗家の直系なんだから」 「それは、知ってるけどさ。俺と違って、双兄達は、強いよ」 その宮守宗家の直系であるところの自分は、こんなにも頼りない。 双兄と双姉を心配しているはずだったのに、その言葉に落ち込んでしまう。 思わず俯いた俺の背中を双姉がばんばんと叩く。 「あらま。ほらほら、いじけてる場合じゃないんじゃないの。志藤ちゃんにはそう言ったんでしょ」 「う、な、なんで知ってるんだよ」 「さっき志藤ちゃんがなんか嬉しそうに言ってたから」 何を言ってるんだ志藤さん。 いつの間に双兄達にそんなことを言っていたんだ志藤さん。 自分で言ったことだが、ものすごい恥ずかしい。 「三薙もすっかりお兄ちゃんねえ。いい子いい子」 「頭撫でるなよ!」 「まあ、かわいくない!」 「かわいくなくていい!」 明らかに馬鹿にしているとしか思えない態度に、ムカっとくる。 頭を撫でる手を振り払うと、双姉はくすくすと楽しそうに笑う。 「でも、志藤ちゃん、本当に感謝してたじゃない。偉いわ」 「なんか、あの人、弟みたい。年上の人なんだけどさ。ちょっと頼りなくて、素直でさ」 「あはは。確かに。かわいいのよね」 双姉も同じ意見だったのか、声をあげて笑う。 あれから目が覚めてからも後ろをちょこちょこと付いてきた。 トイレに行こうとする時も付いてくるのでさすがに困って一言言おうと振り返ると、俺の顔を見て嬉しそうに顔を輝かせる。 それでもはや何も言えなくなってしまった。 本当に失礼なんだか、かるがもの子供というか犬というか、なんというかそういう動物的な何かを感じた。 「いいじゃない、弟が出来て」 「………いや、俺もう弟いるんだけど」 一応、弟はいる。 けれど、もはや兄として、弟して、どう接したらいいのか、分からない。 正しい兄弟の形、なんてどんなものか分からないけれど。 でも今の形が、歪つであることは分かっている。 「………天とも、あんな風になれれば、よかったのにな」 志藤さんまで懐くのはやりすぎだとしても、俺がもっと強くて導き諭すことが出来て、天がただ俺を慕ってくれる。 そういう関係であれれば、よかった。 ただ優しい関係でいればよかった。 なんで、そんな風になれなかったんだろう。 「………四天は、三薙の次に生まれてしまったから、いけなかったのよね」 双姉がぼそりと、小さく漏らす。 それは本当に小さくて、もしかしたら俺に聞かせるつもりで言ったんじゃなかったのかもしれない。 「え」 「………」 その証拠に、双姉は目を逸らして俯いた。 言葉の意味を考えて、頭に血が上る。 「なんだよ、それ。俺が兄貴じゃ駄目だってことかよ!」 「………」 「俺が、頼りなくて、弱いから………っ」 だから、いけなかったというのか。 弱かった俺が悪いのか。 天を忌み嫌いながらも、頼っていた俺が悪いのか。 天がいなければ生活も出来ない俺が悪いのか。 だから天はあんな風な態度を取るというのか。 「………っ」 そんなの分かってる。 俺が悪いことぐらい、分かってる。 分かっているからこそ、余計にどうしようもなく悔しくて、辛かった。 でも、それでも、俺が兄だから駄目だったというのは、存在すら否定されたようで、苦しい感情で一杯になる。 「俺、俺だって、好きで、弱くなったんじゃない!俺が、悪いのかよ!」 努力が足りないと言えば、そうかもしれない。 けれど、どうしようもできないことだって、ある。 双姉に当たっても仕方ないということも分かっているけれど、双姉にそんなことを言われたのが痛くて悔しくて感情が昂ぶる。 優しく明るい姉に、そんなことを言われたのが哀しかった。 「そう、ね」 そして、双姉がかすかに頷いたことにショックを受けた。 俺は、どこかで否定して慰めてくれることを期待していた。 けれど、双姉は、そんな俺を見て哀しそうに眉を寄せる。 「多分、四天が兄だったら、きっと、仲良くなれたと思うわ。もっとうまく、普通の兄弟になれた」 「………っ」 「………でもそれが、いいことなのかは、私には分からないのだけれど」 「………」 存在を否定された哀しさとむなしさに、胸にぽっかりと穴が空く。 全部、俺が悪いのだろうか。 俺が弱いから、全て、悪いのだろうか。 俺みたいなのが、強い天の、兄だから。 「ごめんなさい、変なことを言ったわ」 俯いた俺の体を、そっと双姉が抱きしめる。 俺よりも高い身長と長い手を持つ双姉は、俺をすっぽりと包みこんでしまう。 匂いがしない夢の中だけれど、ふわりといい匂いがした気がした。 「ごめんね、違うの。あなたが頼りないとか、兄として相応しくないとかそういうんじゃないわ。三薙は強い。心が、強いわ。くじけても泣いても落ち込んでも、ちゃんと立ち直って前を向く。優しくて誰でも受け入れようとする。そんなあなたが弟で、私はとっても誇らしい」 そんなの、慰めだ。 俺はそんないい人間じゃない。 本当のこと言われて逆切れして、姉に当たり散らすような人間だ。 いつだって自分のことを棚に上げて、人に嫉妬して羨んで、落ち込んでいじけて。 「………」 「本当よ。四天じゃなければ、きっといいお兄さんになれた。現に志藤ちゃんはあなたを頼りにして慕っているでしょ」 「でも」 「でも、じゃないの。それにお友達を守れたし、志藤ちゃんはあなたを頼りにしているし、昨日は私のことも守ってくれたでしょう。守り切ったでしょう?」 「………うん」 こつんと双姉が俺の額に自分の額を当てて微笑む。 優しい優しい、蕩けるような笑顔。 「大丈夫。三薙は強いわ。強い子よ」 「………子はやめて」 「ごめんなさい。あなたは強い。情けなくなんかないわ。弱くなんかない」 落ち込んでぺしゃんこになった心が少しだけ膨らむ。 それが慰めなんだとしても、強いと言われるのは心地が良い。 けれど、それだと余計に分からない。 どうして、俺が兄なのが悪いのだろう。 双姉は俺の顔に疑問が浮かんだのが分かったのだろう。 「言い方が悪かったわ。あなたが兄なのが悪いんじゃないの。多分、四天が、あなたの後に産まれてしまったのが、悪かったの」 「一緒じゃないの?」 「違うわ」 首をひねった俺に、双姉が目をつぶって少しだけ黙る。 そしてそっと腕をといて、俺から離れた。 「帰ったら、四天と話すんでしょう」 「………うん」 「それじゃあ、その時にちゃんと話して。私のは、ただの想像だから。本当はどう考えてるのか分からない。本人に聞いて。四天はきっとあなたが嫌いな訳じゃないから。ちゃんと話して」 「………」 「大丈夫、あなたは私のかわいい弟で、頼もしいお兄ちゃんなんだから!」 双姉らしい笑顔を浮かべて、その細い手で俺の肩をばんばんと叩く。 なんの根拠もないし、俺の聞きたかった言葉の意味ははぐらかされた。 でもその笑顔を見ていると、もう聞けなくなってしまう。 今の言葉の意味も天にちゃんと聞けば、分かるのだろうか。 「大丈夫、志藤ちゃんには出来たんだから、ちゃんとお兄さんしてらっしゃい!」 からかうように悪戯っぽく笑う双姉。 これ以上話を長引かせる気はないようだ。 もっと話したいが、時間もないし仕方ない。 でも、少しだけ意趣返しがしたかった。 「………熊沢さんも双兄と双姉のいいお兄ちゃんだよね」 「なっ」 双姉の顔が一瞬で真っ赤に染まる。 あからさまに動揺にして手をぱたぱたとし始める。 「な、な、何を言ってるのよ!」 その顔を見たら、双姉に感じていた少しの苛立ちはすっと無くなってしまった。 双姉は俺に酷いことを言いたかった訳じゃない。 何か、意味があるはずなんだ。 双姉は俺と天を心配してくれているのだから。 「膝枕で寝ちゃうぐらいだし」 「あ、あれは双馬がやったことで、わ、私じゃないもの!」 「ふーん」 「も、もう!かわいくない!かわいくなーい!!」 真っ赤になって手を振りあげて殴ってこようとする。 慌ててそれから逃れながら、いつのまにか出現していた木の扉を指さす。 「ま、待った待った!そろそろ行かなくていいの!?」 「逃げる気なの!もう!もー!」 「ほら、仕事だよ!」 慌てて木の扉の横に立つと、双姉は不満そうな顔をして口を尖らせた。 子供のようで、ちょっとかわいい。 「さ、双姉行こう。順子ちゃん待ってるんだろ」 「………今度覚えてなさいよ」 さっさと忘れてしまいたい。 でもやっぱり、双兄も双姉も、熊沢さんに懐いているんだな。 その気持ちは分かるけれど。 「それじゃ、行くわよ」 「うん」 双姉がカラカラと音を立てて、懐かしい形の木の扉を開ける。 度会の母屋と同じ、扉。 昨日と同じように明るい日差しが、舞い込んでくる。 強すぎもなく弱すぎもない、心地よい陽射し。 「おやまのうえにすんでいる、みつめがみ、やまのむこうの、ひとのこみつめる、よそみをしたら、ふためがみ………」 たんたんと、何かを付く音と、幼い歌声が聞こえてくる。 声に誘われ庭に向かうと、予想通りに黒髪の可愛らしい女の子が毬をついている。 「ひとめをさがしてさまよいあるく」 最後に毬を大きくついてバウンドさせ、くるりと回って目の前でキャッチ。 哀愁漂うメロディとそのボール遊びは、ついさっき見たばっかりだ。 「順子ちゃん」 母屋の前の庭で鞠を突く少女は、俺の顔を見てパッと顔を輝かせた。 その顔を見ただけで、世界が一瞬で明るくなる。 「あ、三薙君!」 ここは優しい世界だ。 風も陽射しも空気も、何もかもが温かい。 母屋や庭も、現実のものより綺麗でピカピカと輝いて見える。 「どこいってたの!急にいなくなっちゃうんだもん!」 「ごめんね、ちょっと用事出来ちゃって」 「もう!」 頬をぷうっと膨らませて拗ねて見せる順子ちゃんは、本当に愛らしい。 頭をそっと撫でると、肩で切りそろえた髪がサラサラと揺れる。 「今度はちゃんと遊べる?」 「あー、ごめん、またすぐに用事があって」 「ええー………。手鞠唄教えてあげるって言ったのに」 しょんぼりと肩を落として落胆を表わす。 そんなに自分と遊ぶを楽しんでいてくれたのかと思うと、心がきゅっと締め付けられる。 申し訳ない気持ちと共に、嬉しくもなってしまう。 「本当にごめんね!あ、俺、今の唄、知ってるよ」 「え」 「鞠貸して?」 そんな哀しい顔をさせたくなくて、話を慌てて変える。 ちょっとぐらいの時間だけはある。 綺麗な色取り取りの糸で編まれた鞠を受け取って、軽くつく。 ゴムで出来たボールよりはやっぱりバウンドはしない。 あれ、でもこれは夢だから、俺がバウンドすると思えばするのかな。 「出来るの?」 「うん、ちょっと待って」 脳裏で唄を思い出したながら、俺はもう一度鞠をつき始める。 「おやまのうえにすんでいる、みつめがみ、やまのむこうの、ひとのこみつめる、よそみをしたら、ふためがみ、おやまにうえにすんでいる、ふためがみ、やまからおりて、ひとのこくらう、ひとのこくらってひとめをさがす」 最後になんとか鞠を強くついて一周りしてキャッチ。 多分間違えなかったと思う。 じっと見ていてくれた順子ちゃんに、恐る恐る聞いてみる。 「どう?」 「すごいすごい!」 「だろ!」 「あはは」 手を叩いて褒めてくれた順子ちゃんに、ほっと胸を撫でおろしながらも威張って見せる。 すると順子ちゃんは楽しそうに声を上げて笑った。 「あ、でもね、ちょっとね、最後が違う」 「え?」 小さな手を伸ばす順子ちゃんに、鞠を渡す。 すると順子ちゃんは最初から唄いながら鞠をつく。 「………やまからおりて、ひとのこさがす。ひとめをさがしてさまよいあるく」 最後にそう唄って、順子ちゃんはしめくくった。 確かに俺が聞いた唄と違う。 和彦君からは二回しか聞いてないから俺が間違っているのかもしれないが、でも確かに和彦君はそうやって唄ったはずだ。 人の子喰らう、なんて気味の悪い唄だなと思ったのだから。 「へえ、そういう唄なんだ」 「うん」 大きく頷く順子ちゃん。 ここまで自信満々なら、恐らくこっちが合ってるのだろう。 となると考えられるのは。 「ね、その唄って、かっちゃんに教えた?」 「え」 俺がかっちゃんの名前を出すと、順子ちゃんは一瞬驚いたように目を丸くする。 そして頬をうっすらと赤く染めて嬉しそうにはにかむ。 「うん、教えたよ。それでね一緒に遊んだよ」 「そっか」 やっぱり、和彦君が教わった女の子と言うのは順子ちゃんのことなのだろう。 順子ちゃんはかっちゃんが好きで、和彦君は順子ちゃんをずっと守りたいと思ってる。 こちらがくすぐったくなるような微笑ましい純粋な絆。 「かっちゃんはねえ、唄を覚えないから大変だったよ。すぐに唄を変えるし」 「そうなんだ」 「でもね、鞠をつくのすごい上手なんだよ」 確かにボールの使い方はとても上手かったと思う。 頷いていると、順子ちゃんは興奮して更にかっちゃんを自慢しはじめる。 人のことなのにとても嬉しそうに、とても得意げに。 「かっちゃん、かけっこも早いし、石投げも上手いし、すごいんだよ」 「かっちゃん、運動が得意なんだ」 「うん!喧嘩もね、強いんだよ。私がね、苛められてたら助けてくれたの」 「かっこいいな」 「うん!」 思わず頬が緩んでしまう。 本当にかわいいなあ。 これじゃ、和彦君が守ってやりたいと思うのも当然かもしれない。 順子ちゃんはいつか目覚めることはあるのだろうか。 こんな風にもしかしたら夢の中で出会うことは出来るかもしれない。 けれど、出来れば、現実で、二人で幸せになってほしい。 「三薙君?」 黙りこんでしまった俺を、純粋な目で順子ちゃんが見上げている。 焦って意味なく首を横に振ってしまう。 「あ、えっと、それじゃ、この前を歌ってたやつも教えて?」 「うん、いいよ」 順子ちゃんはにっこりと笑うと鞠をつきはじめる。 「いちかけ、にかけて、さんかけて………」 哀愁漂う懐かしいメロディ。 それを何度か聞かせてもらって、鞠つきを教えてもらう。 そして、もう時間になってしまった。 「それじゃ、俺そろそろ用事があるから、いくね」 「………」 そう言うと、順子ちゃんはしゅんとして肩を落とした。 そんな風に寂しい風情をされると後ろ髪引かれまくりだ。 誰が来ても楽しいのかもしれないが、慕ってもらっているようで、とても嬉しい。 「きっと、また、来るね」 「きっとだよ?」 「うん、きっと」 指きり、って言おうとしてやめた。 破ってしまうかもしれない約束は、したくない。 俺は一度、約束を破っているのだから。 代わりにその小さな頭をそっと撫でる。 「それじゃ、双姉と仲良く遊んでやってね」 「うん」 「どういう意味よ!」 素直に頷く順子ちゃんと頬を膨らませる双姉。 順子ちゃんの隣にいた双姉に、手をひらりと振る。 「双姉、それじゃ行くね」 「ええ、しっかり気張って私達を守ってね!信じるから!」 その言葉に、俺は深く深く頷いた。 「勿論!」 そうだ、絶対に双姉と順子ちゃんを守ってみせる。 「三薙さん………?おはようございます」 目をうっすらと開けると、心配そうに覗き込む志藤さんがいた。 ずっと傍にいたのかと思うとつい笑ってしまう。 「三薙さん?」 「………おはようございます、外、大丈夫ですか?」 「はい。まだ何も起きていません」 「よかった」 だるさを感じる体を、ゆっくりと起こす。 目を一旦つぶって周りの気配を覗くが、志藤さんの言うとおり結界に変調はない。 すでに熊沢さんは母屋に行っている。 夜はこれから深くなる。 本番は、これからだ。 「ありがとうございました。助かりました」 俺が双兄と夢の中に入っている間、守りは志藤さんに任せていた。 志藤さんにお礼を言うと、志藤さんははにかむように笑って頷いた。 「はいっ」 その本当に年下の子供のような仕草に、思わず笑ってしまう。 やっぱりなんだか弟のようだ。 「志藤さんは、兄弟とか、いるんですか?」 「え?はい、兄が一人おります」 「やっぱり!どんな人なんですか?」 「えっと、私は、この力のことで、早くに宮守の関連の家に預けられていたので、あまり話したこともないんです」 なんでもないように言う志藤さんだが、自分の無神経さが嫌になる。 宮守に仕えてくれている人は、そう言う素性の人間も多い。 力を持ったばかりに、疎まれ居場所が無くなった人間を引き取り育て宮守のために働いてもらう。 勿論外に出ていくことを希望すれば、条件付きで出ていくことも可能だが。 それがいいのか悪いのか、分からない。 けれど今の言葉が無神経だったことは確かだ。 「………すいません」 「あ、いえ!」 頭を下げると、志藤さんは慌てて首を横に振る。 「仕方のないことですから。宮守の家の人にはよくしてもらえました。熊沢さんとかよく面倒をみてくれました」 「そう、なんですか」 「はい、私が不甲斐ないから迷惑かけてばかりなんですけど………」 途端に哀しそうに眉をさげて俯いてしまう。 最初は無表情な人だと思ったが、こんなに感情豊かで素直なのだ。 本当に気を張っていたんだな。 「………こんな風に言うのも、熊沢さんに怒られてしまうんですけど」 そしてすぐに落ち込んでネガティブになってしまうのも一緒。 だから、こんなにも親近感が沸くのかもしれない。 「本当に俺達、一緒ですね」 「え」 「俺も志藤さんもちょっと情けないですけど、二人ならなんとかなるかもしれないですね」 一人なら無理なことが多くても、二人ならどうにかなるかもしれない。 陳腐な言葉だが、そう思ってしまう。 0.5+0.5は1で、ようやく一人前になれるかもしれない。 「一緒に頑張りましょう」 「はい!」 志藤さんが力強く大きく頷く。 その直後に、玄関先から音が響いた。 コン、コン、コン。 「………来た」 じっとりとした気配が、染みだしてくる。 夜の暗闇が部屋の中に入ってくるようだ。 結界を解こうとする力を、僅かに感じる。 志藤さんがすっと立ち上がり、俺を見下ろす。 「まずは私が、結界の維持をします。三薙さんは力を温存しておいてください」 「でも」 「確かに力の総量は私の方が多いです。けれど技の面でいったら三薙さんの方が熟練されています。何かあった時のために力をとっておいてください」 確かに、術のバリエーションで言ったら俺の方が上だろう。 それなら志藤さんの言うとおり、何か合った時のために控えておいた方がいいかもしれない。 「………わかりました。ありがとうございます。途中で交代しましょう」 「はい」 志藤さんが玄関先の部屋の真ん中に座り、大きく息を吸って吐く。 力を纏わりつかせて、意識を集中させる。 「頼みます」 「はい!」 夜は長い。 二人で協力して、夜明けを迎えなければいけない。 |