男たちが剣を振りかぶる。
え、嘘。
本当に?

「きゃあああ!!!やだ!!!きゃあああ!!」

嫌!死にたくない!
たとえ切れなくても、あの大きさは私の頭をかち割るには十分だ。
どうにもならないだろうに、私は頭を抱えて座り込む。

「****待て、********女、********役に****」

叫び続けて頭を抱えたまま、小さくなる。
だが、想像していた衝撃はこなかった。
そのまましばらくじっとしていたが、やっぱり来ない。

「だが、*****、**********そりゃ、そうだ、***********」
「************、*********」

周りで何か、話しあっている。
分かる単語もいくつかあるが、恐怖で頭が回らない。
何を話しているのか、分からない。

怖くて顔があげられないが、何も見えないのも怖い。
いつ剣が振り落とされるのかと、想像で心臓がバクバクとものすごい勢いで波打つ。
周りがどうなっているのかが分からないのが怖くて、目をつぶっていられなくなる。
頭を押さえたまま、恐る恐る顔を上げる。

男たちは、私を囲んで見下ろしていた。
どうやらリーダーらしき人間が制止しているようだ。

何、何かな。
私を助けてくれようと思った?
どうかそのまま全力でその方向性でお願いします。

リーダーがこちらを向いて顎をしゃくる。
つられて、こちらに視線を向けた男たちが下卑た笑いを浮かべる。
赤毛が何か冗談を言ったらしく、どっと場が沸く。
いやらしい、生理的にムカついてくる、笑い方。

また、嫌な予感だ。
とりあえず剣を下に下げてくれたけど、これもまたいい傾向じゃない。
これって、あれよね。
こいつ女だぜ、殺す前に遊んで行こうぜ、へっへっへ、みたいな。
そういうお約束な感じの。

冗談じゃないわよ。
ヤられたら殺されないってんならヤられてもいいけど、終わったらこいつら殺すつもりでしょ。
それにこんな小汚い奴らにヤられるのなんてごめんよ。
ミカレベルのイケメンで金持ちならともかく。

ああ、でもどうしよう。
抵抗したら、殺されるのかな。
下ろされはしたものの、いまだ男たちの手は剣にかかっている。
あれをもう一度振り上げられたら、今度こそ天国へ一直線だ。

今のうちに、逃げられないかな。
木にすがるようにして、立ちあがろうとする。
やばい、膝が笑う。
立ちあがれない。

怖い。

怖い怖い怖い。
カタカタと小さく音が鳴っている。
ああ、私の歯の音か。
歯が噛み合わない。
体の震えが、止まらない。
また、涙が溢れてくる。

金髪のリーダー格の男が屈みこんで、私の足に手を伸ばす。
足首を掴まれて、ぞわりと嫌悪感で鳥肌が立つ。
どろりと濁ったこいつらの目が、気持ち悪い。
私を人間として見ていない、モノとしか見ていないのが、分かる。
私の意志なんて、どうでもいいと思っているのが分かる。

今までの人生でだって、そりゃひどい扱い受けたことあるけど、こんな目をした人はいなかった。
私なんて、単なる穴のついたモノとしか見ていない。

こういう時、昔の女性だったら自分で舌噛んで死んだりするのかしら。
辱めを受けるぐらいだったら、死を選ぶ。
あいつらの剣を奪って首を切るとか。

………無理、絶対無理。
無理無理無理。

痛いのはいや。
怖いのはいや。
根性なしだろうが、慎みがなかろうが、誇りがなかろうがなんでもいいわよ。
死にたくない。
死んでまで守り通すプライドなんてないわよ。
死なないっていうなら、こいつらに媚売るぐらいなんでもない。
いやだ、死にたくない。

「待って……、やめて………、なんでも、する……」

涙が出てくる。
怖い。
手が震える。
なんでこんな目にあってるの。
本当に私が何をしたっていうのよ。
怖い。
逃げたい。
助けて。

私の懇願など聞く様子もなく、金髪の汚い手が、スカートの裾を結んでむき出しになっていた私の膝を掴んで広げる。
スカートが太腿までずり下がり、下着が露わになる。
ごくりと、誰かが唾を呑む音が響いた。

羞恥なんて感じている暇はなく、茶髪の男の剣が私の首にかかる。
切れ味は悪そうだが、それでも刃物だ。
軽く触れただけで痛みが走り、皮膚が切れたのが分かった。

恐怖で頭が真っ白になる。
もしかしてそういうプレイ?
流血しながらヤられるの?
どんだけSなのよ。
首切りプレイとか、マニアすぎてAVにもならないでしょ。

『やだ、やめて、お願い、やめて!』

私が泣きわめく姿を、男たちが楽しそうに笑いながら見ている。
サディスティックにニヤついて、指を指してはやし立てている。
興に乗ったのか、今度はごつくて大きな手が私の胸を握りしめる。

「痛い!!」

恐怖とは別に、痛みで涙が出てくる。
力を込めている手は、まるで握りつぶそうとでもしているようだ。
いや、まるで、じゃないのか。
握りつぶそうとしているのか。

『痛い、やめて!痛い、痛い!』

騒いで手足をばたつかせると、剣を更に押し付けられる。
つっと、喉に何か液体が伝う。
そうされると、もう動けない。
大人しくなった私に、のしかかっている金髪の男がにやりと笑う。

『うっ、つ』

胸を乱暴に揉みしだかれ、呻き声が出る。
この下手くそ。
女の扱い方ぐらい知らないのか、この童貞野郎。

どんなに心の中で罵っても、体は竦む。
好きに体を弄ばれるというのが、こんなにも恐ろしいものだとは思わなかった。
ヤられてもいいとは思ったが、これは違う。
ヤる、ヤられるとかの問題じゃない。

自分が人間として扱われない、恐怖。
ゴミにでもなったような気分。
自分の存在が、無視されている。

セックスって、すごい無防備になる行為。
一番センシティブな部分を、晒す行為。
それなのに、こちらの意志を全く無視される。

これはただの暴力。
身も心も踏みにじる、暴力。

『い、や………やめ……て』

泣きながら許しを乞うても、男たちは笑うばかり。
私が怖がっているのを、楽しんでいる。
クソ野郎ども。
死んじまえ。

怖い。
怖い。
怖い。

男の薄汚い手が、足を辿ってスカートの中に迫ってくる。
まるで虫に這われているかのような、原始的な嫌悪と恐怖。

いや、だ。

何かにすがろうと、手で地面を探る。
辺りには石や草があるばかり。

何もない。
誰も助けてくれない。
助けて。
誰か助けてよ。

助けて助けて、お母さん助けて。
お母さん、助けて。

指に、何か冷たい感触のものが触れる。
手を伸ばして、すがるようにそれを握りしめる。
冷たい、陶器の感触。

男の手が、私の下着にかかる。
ざわり。
全身を駆け抜けた悪寒に、何も考えられなかった。
手にしたものを、男の頭目がけて振り下ろす。

がしゃん!!

派手な音を立てて、手にした陶器が割れる。
まだ半分以上残っていた液体が、辺りに撒き散らされる。
金髪の男が不意の攻撃に対応できずに横倒しに倒れる。
アルコール濃度の高い酒が目に入ったらしく、目を押さえて呻く。

周りの男たちも反抗しないはずだった獲物の反撃に驚いて動きを止めている。
今しかない。
逃げろ。
逃げろ。
逃げろ。
動け、私の足。
動け。
動け。

動いた!

足を振り上げて、男の体の下から抜け出す。
首にかかった剣を避けて、体を起こす。
よし、立てる。
でも、すぐにほかの男たちに取り押さえられるだろう。
どうしたらいい。
武器は。
ない。
何がある。

周りにはアルコールの匂いが立ち込めている。
アルコール。
濃度の高いアルコール。

そして、まだ火のともっていたランプ。
これだ。
頼む、ついて!

私は反対の手でランプを取り上げると、倒れて埋めていた男目がけて投げつける。
そんなに頑丈ではない室内用のランプは簡単に割れて、中の蝋燭が零れおちる。
滴り落ちるアルコールに、蝋燭の火が落ちる。

「うわ、ああああああ、があ」
「消せ!早く!」

火が、燃え盛った。
リーダーの髪に火が移る。
アルコールで濡れている髪は、一瞬で火の中に消える。
苦しんで、地面で暴れまわる。
辺りの枯草に、火が更に広がる。

ざまあみろ!
よし。
今だ。

逃げろ!

私は混乱の中にいる男達をすり抜けて、その場から駆けだした。





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